異物混入特集に寄せて、2025年10月に開催されたFOOD展主催者セミナーのひとつ、「設計者に求められる食品安全とは」から物理的汚染の部分を記述させていただきます。
物理的汚染-生物の混入
異物混入には昆虫など生物の混入があり、厳しい消費者の感覚があります。食品安全と規定した場合、昆虫などの混入が原因となる食品による健康被害として厚生労働省の統計にあがることはほとんどありません。したがって、昆虫の混入は食品安全としては危害に加えるかどうかは任意ですが、経営を継続していくうえでこれを予防する対策を取る必要があるのは明確です。
同じ昆虫などの混入でも、たとえば畑のレタスについてくるカマキリやカエルといった生物は建築的にはそれほど効果的な予防方法はありません。
一方、食品製造工場の中に侵入、生息する羽虫やゴキブリなどの昆虫は主要な建築的配慮事項として多くの設計者が認識しています。
昆虫などの侵入経路は、建物や設備の隙間、ドアや窓の開閉時、排水経路など建築的な経路のほかに人や荷物への付着、原材料や包装材からの持ち込みなど、飛来、歩行侵入、排水経路侵入、付着などが想定されています。
内部発生もひとつの要点で、排水残渣が集まるところのほかに、表面が覆われていて見えない部分、粉だまりとなりやすい場所を作らない、もしくは定期的に点検する必要があります。
内部発生の防止
アメリカの食品安全規格でAIBがあります。日本ではパン業界、菓子業界、製粉業界などが多く取り入れています。異物混入に厳しい規格で、食品工場の監査で実際に機械の外板をドライバーやスパナではずして監査し、虫の生息場所として粉の溜まる場所、換気ダクトの中、工場内の水飲み器の下部などを高い頻度で監査します。
生産エリア内に設置される冷水器は熱交換をするので、機械下部が熱の放出で冬でも暖かく好適な温度となり、外板に囲われているので格好の住みかになるという実例があります。実際に建築や設備としてなにができるか考えたいと思います。
陽圧化技術
よく設計者が陽圧化と口にしますが、この効果をあまり期待しないほうがいいと思います。
陽圧化の事例として、建築的にはドーム球場が陽圧化されていて、空気で屋根を支えています。屋根の建材が実際のドーム球場で28,6002400tあります。それを300Pa(パスカル)という空気の圧力で支えています(図1)。食品工場や検疫施設などで実際に運用している陽圧、陰圧は10〜20Pa程度です。
300Paだと1m2に約30kgの力がかかり、屋根を持ち上げることもできますが、壁や床にも同じ力がかかります。もし一般的な扉を設置して、それを開けたとしたら一気に時速100km/hの風が吹き出すか、建材自体を吹き飛ばしてしまいます。
そのまま扉が開けっ放しになると空気がシューッと抜けて屋根がだんだん落ちてきます。これを前室や扉の構造を特殊なものにすることで安定的な運用ができています。大型トラックの搬入についても前後を気密扉で仕切ったおおきな前室を設けて、両方の扉が同時に開かないようにしています。
工場の陽圧化
工場の陽圧化を10Paとるすと(図2)、それでも2平方メートルの扉に2kg の力がかかります。風速で言うと1m/sくらいになります。
たまにファミリーレストランの扉が重いとき、それくらいの圧力がかかっていますが、手で押して開けることはできます。ファミリーレストランの場合は、多くは厨房の排気が強く、客席の空気を引いて陰圧になり、それがエントランスの扉の重さになっているケースがほとんどです。
エアシャワー
さて、飛来してくる昆虫は風速10m/sの風でも侵入してくるというデータがあるので、風速1m/s程度の陽圧化はあまり役に立ちません。また、食品工場に設置してあるエアシャワーは、10m/sの風がノズルから吹出します。それでも白衣に付着した毛髪は飛んでいかないといったデータもあります。エアシャワーはかえってホコリが舞ってしまうとか、フィルターを清掃しないといったこともあり、エアシャワーをつけないでローラー掛けを徹底している工場も多くなっています。
陽圧室の設計
陽圧の設計は、建材のすべての隙間をmm単位で計算し、そこから漏れる空気の量を積算します。そうした中で、扉の開放は大量の空気を消費するため、開放がない状態にしなければなりません。
陽圧ゾーンは、その区画のすべての出入口に前室を設けます。生産物が連続的に通過するコンベア開口なども同様で、一旦、クレートに取るなどして、連続でなくバッチで処理するフローに変えなければなりません。前室がほかの部屋への出入口が多い通路であってはなりません。陽圧ゾーンと通路の2方向にしか扉がない前室を設ける必要があり、同時開放できない仕組みが必要です(図2)。
実際の運用
陽圧を保つ工場は前室が増え、設計段階から平面積も増えますし、扉の数も大幅に制限しなければなりません。建築の設計者としては大幅に自由度が制限されることになり、実際にきちんと前室を設置している工場が少ないのが現実です。陽圧というのがイメージだけ残っていて、実際には防虫などが期待できないケースを多く目にします。
前室が十分とれない工場は、1ゾーンの陽圧化にとらわれず、次に示す工場全体のエアバランスを保つことを中心に考えていただくといいと思います。
エアバランス
1室または1ゾーンの扉解放時も含めた陽圧化が実現できていないケースでは、部屋の給気と排気のバランスでエアバランスを取っています。ゾーニングは清潔区とその他の区画の2ゾーンが主流です。
新築時には10Pa程度の陽圧が実現できていたとしたら、もちろん陰圧になることはありません。ただ、実際の空気の状況を把握することは意外と難しく、設計図と実際の計測と突き合わせて確認することが必要です。
陰圧になるケース
商品の盛付けなどを行う包装室は換気量もそう多くありません。しかし、調理を伴う加熱調理室や、調理麺の茹で麺室などは大量の換気を新築時から設備します。
ここで建築的に計画から漏れやすいのが、調理機器に直接ファンと小径のダクトをつけて熱や蒸気を排気する局所排気です。調理室の排気フードから排気される空気とそれに見合う給気はバランスを取って設計していても、調理機器メーカーが据え付ける局所排気は設計の計算に取り込むタイミングがずれたり、最後まで設計図に現れなかったりします。何年かして機器を増設した場合も局所排気を忘れずに盛り込まなければなりません。ここで工場のエアバランスが取れず陰圧になっているケースを多く見かけます。(図3)。
防虫という観点では、陽圧が実現できていない上に、知らないうちに陰圧になっていて外部の異物を引込んでいる場合があります。炊飯機、茹で麺機、洗浄機といった局所排気を必ず取る機器は設計段階で仕様を確認することが重要です。また、焼成機や調理釜を増設する場合は、建築業者も排気フードは設置しても、給気を十分に取らないケースが見受けられます。排気フードを設置したらそれに見合う給気を必ず計画することが必要です。