食品製造施設の温度設計
食品施設の温度設計は、生産工程に従って一般空調室(25℃など)、チルド作業室(15℃など)、冷蔵室(5℃など)、冷凍室(-20℃など)そして非空調室などの設定温度を定めます。
次に建築的に壁や天井などの間仕切りの建材を選定します。25℃室や非空調室の場合軽量鉄骨などの下地に石膏ボードなどをビス留めし、間仕切りを作ります。15℃室は厚さ40mmの断熱パネルを立上げ、さらに冷蔵室は床下に発泡ポリスチレンフォームで断熱した上に、床下から厚さ40㎜の断熱パネルを立上げます(図1)。-20℃室では断熱パネルの厚さが100㎜になったり、床下に凍結を防止する空気管を敷設したり、床や壁の伝熱を避けるため電気ヒーターを埋め込んだりする、といった手順になります。石膏ボードをビスで固定する場合と比べて、断熱パネルを組んでいく場合は気密性が大きく上がります。気密性が高いために、冷凍室などは常温と冷凍温度での温度差による空気の収縮が大きく、その部屋の壁の大きな変形を防ぐために空気を逃がす10cm四方ほどの小さなダンパーをどの冷凍室にも必ず取り付けます。
温度設計で重要になるのは、ここで在室人員を想定して建築基準法で要求される換気量を設定することです。
同じ100m2、髙さ3mの部屋でも、冷蔵室や倉庫などのように通常人がいない部屋は換気の必要がなく、その部屋の300m3の空気をただ冷やしたり温めたりすれば温度は維持できます。しかし、100m2高さ3mの部屋に5名の人員が在室すると、空調された300m3の空気のほかに5人×20m3/h・人=100m3/hの屋外空気の給気が必要になり、空調されていないかなり暖かく湿った空気が流入することになります。
実際の温度湿度管理は、こうした建材の選定と換気量の設計などから設計者による差が出てきてしまうことになり、予期しない結露などの現象が発生することになります。
建物に発生する結露の種類
事務室や住宅で起こる結露は、夏の湿った空気が室内の想定より冷えたコンクリートなどの壁に触れて結露を起こすといったように、形態も限られます。
食品施設では、それぞれの作業室や保管室の設定温度が-20℃から+25℃、非空調まで幅広く、また施設の中に火気や蒸気を発生させる生産機器が設置されています。こうした設定温度が違う部屋が隣接し、実際の空気条件も部屋によって違うため、様々な組み合わせで結露を発生させます。
結露の発生は、まず結露を発生させる水分が屋外のものなのか、施設内で発生したものなのかによって分類できます。屋外の空気に多くの水分が含まれているのは夏の空気で、冬の低い温度の空気にはほとんど水分が含まれていません。施設内で発生する水蒸気などは夏、冬両方とも冷えた建材に触れた部分で結露を発生させます。夏季に冷えた部屋というものは以前は冷蔵室などに限られ、冷蔵室の断熱は施工方法が確立していました。近年はどのような食品施設でも15℃以下の部屋の割合がかなり多くなり、細部の仕舞いまで断熱が行き届かなくなっていたりするため、夏冬通じて結露が発生する原因になっています。
屋外空気型結露
かつては天井裏に夏の湿った空気が流入して、断熱構造にもかかわらず冷蔵庫の少し冷えた天井上面にうっすらと結露する例が代表的でした。天井裏については、近年は15℃室やその他の温度帯でグラスウール断熱材など不十分な断熱による結露が起こるケースが増えています。
屋外の空気には設計値があり、東京の夏の空気は35℃60%を設計値としています。仮に温度が2~3℃上昇している時間帯も、水分量が急には増えないので設計値としては妥当であると考えられています。
この標準的な35℃60%の空気を25℃に冷却すると相対湿度は100%となり、それ以下の温度に冷却すると結露が発生することになります。ちなみに25℃60%の空気を15℃に冷却しても相対湿度は100%近くになります。これによって、屋外の空気が25℃の部屋に多少流入してもすぐに大きな結露が起こる可能性は低いですが、25℃より低い温度の部屋に流入するとすぐに結露が起こるということになります(図2)。
(図2)
屋外の空気が通路や、なんらかの理由で15℃の部屋に常時流入してきた場合は結露が常態化し、カビの発生が抑えられなくなります。よくありがちなのが、法定で必要な換気をそのまま15℃室に送風機で給気しているケースで、まず室内の空気の吹出し口に黒いカビが繁殖します(写真1)25℃の部屋にはそのまま屋外の空気を給気していても、15℃の部屋には外気空調機を設置して給気しなければ結露します。もともと一般空調室だった部屋を15℃に改修したときによく見受けられるケースです。
同様に、25℃で設計した部屋の天井面の断熱をグラスウールで行うことは一般的です。天井を断熱パネル構造にしないで15℃に下げて運用した場合、天井上面のグラスウールがすぐに吸湿してしまい、それ以降、長期にわたり断熱効果が得られなくなります。石膏ボードの天井上面に夏季は常に水が数センチ溜まって、それに気づかず秋を迎えてしまい、それを毎年繰り返します。
屋内発生型結露
冬季の屋外空気は温度が低いため、同じ体積当たり保有する水分量は夏季に比べて1/10ほどしかありません。冬季の屋外空気は室内を乾燥させる効果はあっても、結露を発生させることはほとんどありません。
冬季の結露は屋内で発生する水蒸気によるものが多くなります。水蒸気の発生場所は加熱調理室であったり、殺菌槽や茹で工程のある部屋、番重などを洗浄する部屋などとなります。水蒸気の発生している部屋で結露を起こす場合もありますが、多くは隣接する低温の作業室で起こします。
水蒸気が発生する部屋には、その水蒸気を排出するために排気量の大きな換気機器が設置されます。空気は圧力のバランスを取ろうとしますから、同じ部屋に同量の給気機器が必要になります。設計時にはこれらの換気機器は適正にプロットされています。ただ、空気の流れは目に見えないので、生産機器を後から増設したときに、排気機器だけ増設したりするケースがあります。その部屋の状況を見た目で確かめて空気の流れを確認することは難しいので、建屋の改修時にも適正な設計が必要です。
換気機器の設置が不適切な場合、水蒸気が発生する部屋の空気が常時流れ込んだりして、冬季でも大きな結露が起こることがあります。
日配商品で具材を加熱調理する場合は、一旦、半製品の状態で保管することがほとんどなのでレイアウト的に冷却された具材を盛り付ける部屋には接していないことも多いです。日配商品の調理麺の場合には、茹でた麺をそのままコンベアで盛り付ける部屋に送り込む関係で、茹で工程のある部屋と低温で盛り付ける部屋が隣接し、そこで水蒸気が常時流れ込んでいることがあります。その場合は空調機の除湿能力では間に合わず、恒常的な結露が発生することになります。
これは夏季でも同じで、夏季の屋外空気より温度も湿度も高い茹で工程のある部屋の空気が流れ込むため、簡単に結露が発生します。(図3)。
結露の原因と対策
天井裏に夏の湿った空気が流入して天井上面が結露する場合は、以前は天井裏に積極的に屋外の空気を流入させて空気が滞留しないようにする方法も取りました。近年は鉄骨造でも鋼板の外装材と折板屋根と呼ぶ折板との接合部分もある程度隙間がなくなってきたので、天井裏の空間を除湿する方法を取ることが多くなりました。
そのほか、以前から見られる結露では、2階以上にある冷蔵庫や15℃室の床下、つまり階下の天井裏の結露などもあります。これらは断熱計算の見込み違いや、建材を冷たい熱が伝わるヒートブリッジによって起こります。
ここでは食品製造施設で特有の結露要因を説明しています。この天井裏の例や床下の例などの原因究明は一般の施工業者でも見分けて対策を取ることができる事例です。
私どもが結露調査の依頼を受けるのは、すでに記述した複数の要素が絡む事例です。
25℃の部屋に屋外の空気が流入して結露する場合は、換気の調査を実施します。
換気は1ヶ所を計測していてもその部屋の扉の開け閉めでも変動するので、同じ条件で計測する必要があります。その上で換気バランスが崩れている部屋を特定して、まず、そのバランスを是正します。その上で断熱の不良や施工の不良などを特定していきます。
15℃の部屋で結露が発生しているケースでは、換気のバランスのほかに、屋外の空気をそのまま給気しているケースをまず疑います。15℃の部屋の屋外空気の給気は空調したうえで給気する必要があるので、図面の調査から入ります。その上で給気フィルターを含めた換気の管理状況を聞きとったり、換気量を計測したり、給気口近辺の結露の状況やカビの状況を目視して、状況を判断していきます。対策としては外気空調機器の設置や更新まで行うこともあります。
建材についても25℃室は石膏ボードに断熱材を敷いてもいいのですが、20℃以下の部屋などがある場合は断熱パネルで施工することになります。先ほどの35℃の空気が結露しないのはぎりぎり25℃までです。
また、せっかく断熱パネルで施工しても、空調機の形式を事務室などで使う、天井に1m四方の開口を必要とする天井カセット式空調機などを設置して結露を誘発しているケースもあります(写真2)。天井面から吸込みフィルターが露出しているだけでも異物が落下する懸念があるうえに、天井裏と空気が出入りしている状況は避けなければなりません。この場合の対策は別の型式への空調機の更新となります。
水蒸気が発生する部屋からの空気の流入も、まず図面の確認を行います。かなり広い範囲で換気の計測も行って、複雑な空気の動きを解明します。生産機器や排気フードが停止している時間帯に調査に入ることも多いので、機器が稼働している状況を想像しながら調査を行うこともあります。
対策としては、もはや結露とは程遠い屋外の換気機器の修理や更新といったところから入ります。図面の調査では、新築時に計画していた機器類にさらに追加している機器や、図面にも表れていない、局所排気と呼んでいる、生産機器から直接排気を行っている機器などを探し出すことも多くあります。
設計にない空気の流入や流出がなくなったところで、建材や断熱材を確認し、本来の給気や排気、機器や配管、電線などの開口など物理的な状況を調査していきます。
食品製造施設の結露はこうした複数の要因から発生していることも多く、原因を特定することが重要です。
その他の要因
生産中の食材の温度上昇を抑える一方、従業員の長時間の作業の負担を考慮して15℃室という温度帯の作業室が多くなっています。米飯工場では15℃で米のでんぷんがβ化してボロボロになることを懸念して20℃という温度帯の部屋を作っているところも多くあります。室温に関心を持つことで食品の安全性が上がり、保存性も向上していることは大切なことです。また、仕分け室や出荷前保管室の設定温度を、物流会社も含めた管理から5℃であったり10℃であったり定めています。生産室より保管室のほうが製品の滞留時間は長いため、より食材の温度には影響します。
一方、建築的にはかつては室温を25℃と記載すると、例えば空調機の設定温度を25℃にするといった意味合いで、空調機が稼働しているときに室温が25℃に達すると運転を停止し、28℃まで上昇するとまた運転を始めて温度を下げる、といった認識でした。温度は部屋の空気を吸込む吸込み位置に設置されたセンサーで検知したり、リモコン位置にセンサーを設置することもあります。空調機の運転中であっても、高さ3mの部屋の天井面と床面では1.5℃程度の温度差がつきますから、部屋の各所で温度がずれることになります。
こうした不確かさを認識したうえで、どのポイントで計測した温度を管理するかをあらためて考えることで、温度差による結露の対策の一助になるかもしれません。
また、15℃やまして20℃といった温度設定が食材の温度上昇にどの程度影響を及ぼしているのかということを、食品安全を担保したうえで再検討する余地もあると思います。