(特別講演)食品工場における結露対策について
北海道 保健福祉部 健康安全局 食品衛生課
令和8年度(2026年度)食肉・食鳥肉衛生技術研修会
岡安晃一
市販、もしくは食品に加工される牛、豚などの食肉は、と畜場法に基づいた検査を受けて合格したものだけが出荷されています。国内での検査は各地域の食肉衛生検査所の食品衛生監視員が1頭ずつ実施していますが、米国向けの食肉については米国農務省食品安全検査局(FSIS)の基準に基づいた検査が要求されています。
海外への和牛をはじめとした畜肉の輸出は日本の重要な産業になっています。FSISは日本国内の食肉の検査体制を、行政がどのようにと畜事業者をコントロールしているか見るために定期的に査察を実施し、米国への食肉の輸出を許可しています。
と畜場では食肉のカットに使うナイフの殺菌に熱湯を使用したり、枝肉のシャワリングなど水蒸気の発生する工程があります。このたびFSISの査察において、そうした作業室での結露を起こしてはならないと査察官から指導がありました。それに合わせ、と畜場の結露を防ぐためのフローを検証し、セミナーを実施しました。
概 論
と畜場に限らず、食品工場で結露の事例はさまざまな工程で複数の原因で多数発生します。
原材料が冷蔵や冷凍で入荷し、それらを加熱調理し、+15℃の作業室で容器に盛り付けて包装し、製品冷蔵庫で保管するといった工程では結露のリスクが多数存在します。一般的な建築工事では、建材などの選定で結露の対策は行われていますが、食品工場では温度帯が多岐に渡り、建材などの選定だけで結露を防ぐことは難しくなっています。
結露の事象を把握するには、工程に従って実際にどのように環境が変化していくかを知るところから始まります。建屋の設計図を描く建築会社では工場を運転しているときの状況まで把握しきれませんし、換気や空調を行っている建築設備会社でも時々刻々変化する環境条件まで把握している事業者は多くありません。
空気の温度、そこに含まれている湿度、風速、建材の材質、熱伝導率、原材料の状態といった目視では確認できない項目の組合せで、しかもカビなどの微生物や時間の管理といったことが製品の品質に関わってきます。今回は、一般の食品工場の温度設計について説明した後、と畜場において、解体室(常温もしくは+10℃近辺)、懸肉室(0℃近辺)、冷蔵庫(0℃近辺)に至る工程で発生する結露を事例を挙げて解説します。
食品加工施設の温度設計
食品工場の温度設計は、生産工程に従って一般空調室(25℃など)、チルド作業室(15℃など)、冷蔵室(5℃など)、冷凍室(-20℃など)そして非空調室などの設定温度を定めます。
次に建築的に壁や天井などの間仕切りの建材を選定します。25℃室や非空調室の場合軽量鉄骨などの下地に石膏ボードなどをビス留めし、間仕切りを作ります。15℃室は厚さ40mmの断熱パネルを立上げ、さらに冷蔵室は床下に発泡ポリスチレンフォームで断熱します。-20℃室では断熱パネルの厚さが100㎜になったり、床下に凍結を防止する空気管を敷設したり、床や壁の伝熱を避けるため電気ヒーターを埋め込んだりする、といった構造になります。
石膏ボードをビスで固定する場合と比べて、断熱パネルを組んでいく場合は気密性が大きく上がります。(図1)冷凍室などは常温と冷凍温度での温度差による空気の収縮が大きく、気密性が高いためにその部屋の壁が大きく変形することがあります。それを防ぐために、どの冷凍室にも空気を逃がす10cm四方ほどの小さなダンパーを必ず取り付けます。
温度設計で重要になるのは、ここで在室人員を想定して建築基準法で要求される換気量を設定することです。この辺が結露と大きく関係してきます。
同じ100m2、髙さ3mの部屋でも、冷蔵室や倉庫などのように通常人がいない部屋は換気の必要がなく、その部屋の300m3の空気をただ冷やしたり温めたりすれば温度は維持できます。しかし、100m2高さ3mの部屋に5名の人員が在室すると、空調された300m3の空気のほかに5人×20m3/h・人=100m3/hの屋外空気の給気が必要になり、空調されていないかなり暖かく湿った空気が流入することになります。
実際の温度湿度管理は、こうした建材の選定と換気量の設計などから設計者による差が出てきてしまうことになり、予期しない結露などの現象が発生することになります。
結露の原理1
1m3の空気の中に溶け込める水分の量は温度によって変わります。
35℃の空気には約39.6g、25℃の空気には約23.0gの水分が溶け込めます。一定の水分を水蒸気として含んだ空気が冷却されることにより液体となり、これが結露となって現れます。
35℃で相対湿度が60%だと、その水分の量は39.6g×60%=23.76gとなります。この1m3の空気が25℃で取り込める水分が23.0gですから、35℃60%の空気が25℃に冷却されても水分のほぼ全量を取り込めることになります。これが15℃になると取り込める水分の量は12.8gとなり、残りの水分が結露として液体の状態に戻ってしまいます。
35℃60%の相対湿度の空気は、25℃だと結露のリスクは少ないですが、15℃になると約半分の水分が結露として一気に現れる、ということになります。
建物に発生する結露の種類
事務室や住宅で起こる結露は、夏の湿った空気が室内の想定より冷えたコンクリートなどの壁に触れて結露を起こす、といったように形態も限られます。食品工場では、それぞれの作業室や保管室の設定温度が-20℃から+25℃、あるいは非空調まで幅広く、また施設の中に火気や蒸気を発生させる生産機器が設置されています。こうした設定温度が違う部屋が隣接し、実際の空気条件も部屋によって違うため、様々な組み合わせで結露を発生させます。今回は、壁や天井のほか、フックやレール、設備機器の表面といったところも結露の対象として説明します。
結露の発生は、まず結露を発生させる水分が屋外のものなのか、施設内で発生したものなのかによって分類できます。屋外の空気に多くの水分が含まれているのは夏の空気で、冬の低い温度の空気にはほとんど水分が含まれていません。施設内で発生する水蒸気などは夏、冬両方とも冷えた建材に触れた部分で結露を発生させます。夏季に冷えた部屋というものは以前は冷蔵室などに限られ、冷蔵室の断熱は施工方法が確立していました。近年はどのような食品施設でも15℃以下の部屋の割合がかなり多くなり、細部の仕舞いまで断熱が行き届かなくなっていたりするため、夏冬通じて結露が発生する原因になっています。
屋外空気型結露
かつては天井裏に夏の湿った空気が流入して、断熱構造にもかかわらず冷蔵庫の少し冷えた天井上面にうっすらと結露する例などが代表的でした。天井裏については、近年は15℃室やその他の温度帯でグラスウール断熱材など不十分な断熱による結露が起こるケースが増えています。
屋外の空気には設計値があり、東京の夏の空気は35℃60%を設計値としています。近年は40℃に届く気温もよく観測されるのですが、仮に短時間に温度が2~3℃上昇したとしても、水分量が急に増える要因がなければ問題ないので設計値としては妥当であると考えられています。
先ほどの話から、屋外の空気が25℃の部屋に多少流入してもすぐに大きな結露が起こる可能性は低いですが、25℃より低い温度の部屋に流入するとすぐに結露が起こるということになります。
と畜場の結露・事例A
公益財団法人 日本食肉生産技術開発センターがインターネットに掲示している「食肉処理施設配置図等図面」があります。
https //www.jamti.jp/pdf/tech06-2.pdf#page=5
ここでは「縣肉室」とある解体室の前に枝肉洗浄室が置かれていて、ここでシャワリングが行われています。枝肉洗浄室と解体室の間の扉の開閉で水蒸気が侵入してくる場合、結露が発生します。また、解体室から冷蔵庫に入る場合、冷蔵庫入り口で結露が発生しやすいのですが、この処理施設では冷蔵庫の前に前室を設置しているので結露が起こりにくい構造です。
と畜場の結露・事例B
と畜場の状況
次の食肉処理施設では、まず枝肉洗浄室が解体室を兼ねていて、解体室、準備室、冷蔵庫と工程が進んでいきます。 解体室においてシャワリングを行います。また、枝肉処理の工程で各所でナイフを使用し、それを83℃で殺菌することがと畜場法で定められています。ここでは多くの殺菌槽が置かれています。と体はすみやかに解体室を通過していきますが、1日数百頭の処理が連続して行われています。こうした中で解体室は常時湿度が高く、メガネが曇ったり、ともすると室内が白く霞むような状況になっています。
解体室と冷蔵庫の間に、前室の役割も持つ準備室が設置されています。ある程度処理された枝肉はそれほど広くない準備室にはいりますが、準備室も湿度が高く、通常設備のほかに小型除湿器を置いたり、サーキュレーター(循環ファン)を設置したりしています。そうした対策にもかかわらず準備室の中で結露が見られます。
枝肉はさらに冷蔵庫に運ばれますが、冷蔵庫の入り口ごとに結露が見られます。(図3)

解体室、準備室、冷蔵庫の各室の設定温度は、牛と豚の工程があり、牛:解体室外気温並10~25℃、準備室8℃、冷蔵庫-3~-2℃、豚:解体室8℃、準備室8℃、冷蔵庫-3~-2℃となっています。
実測値は牛:解体室外気温並、準備室15~17℃、冷蔵庫-1~2℃、豚:解体室10~25℃、準備室15~17℃、冷蔵庫-1~2℃となっています。
原因の推測
結露の原因は以下のように推測します。
解体室ではシャワリングで大量の水分で洗浄し、ナイフを殺菌するための数多くの殺菌槽から常に水蒸気が立ち上っています。すでにこの時点で空気中に吸収しきれなかった水蒸気が結露となって現れ、夏はまだ空気中に包含できるものが、冬は霧状になって白く霞んだ状態になるものと思われます。8℃設定の解体室の温度が下がらないのは、一般的な状況下では十分な能力がある空調機器でも、その能力の大部分を潜熱負荷に消費しているため空調能力が不足していると推測します。
ある風量(100m3/min)で20℃80%の空気を仮に10℃にするときに必要な顕熱負荷は20.1kW+潜熱負荷は22.2kW必要なのに対し、20℃60%の空気では顕熱負荷20.1kWは変わらず+潜熱負荷7.4kWとなります。湿度が20%違うだけでおおきな負荷の差がでることになります。これは空調機が温度低下のために働くより先に、除湿のために働いていることになります。温度は下がっていないのですが能力の範囲で除湿が多少行われているとも言えます。
準備室は設定温度8℃に対して、実測15~17℃になっています。これは空調管理された解体室で冷却もしくは除湿が不十分だった空気がそのまま流入して、準備室でも空調および除湿の能力が不足しています。解体室が同じ設定温度の8℃なら準備室も条件は同じですが、非空調の解体室の場合、温度設定8℃の準備室との間では扉の開放時間が長いため、空気の流入が常時発生することになります。
冷蔵庫入口の結露については、冷蔵庫単体では結露は起こらず、外部(準備室)からの温度が高く水分を含んだ空気の流入で発生します。 冷蔵庫の空気は冷えて比重が重く、準備室の空気は温度が高く比重が軽いので、温度差が大きいと自然と空気の流出入が起きます。流入した空気は上部に入り込むため天井面に結露が発生します。
今回の準備室設定温度の8℃で1m3の空気に溶け込める水分の量は8.28gです。冷蔵庫の-2℃では複雑な計算になりますが、0℃では4.85gになります。この設定どおりの温度差なら多少の空気の流入があっても実際に結露するリスクは多くありません。しかし、実際には15℃の空気でしかも結露が発生しているということは100%に近い状態の空気となるため、-2℃の冷蔵庫に流入すると空気中の水蒸気がすぐに凝縮して冷蔵庫の入口で結露を起こすことになります。
考えられる対策
今回は水分の発生源が比較的明らかになっているため、まずその対策が有効です。発生源の周囲に物理的な覆いをつけることが最初の選択肢です。ビニールのれんをつけるなどがありますが、衛生的な問題もあり、効果も限定的です。固定されたブースにしてしまうことが望ましい形となり、その部分に局所の空調や換気を検討することになります。空調や換気の考え方は実際にブースの計画にしたがって設計を行う必要があります。
次に現状のまま解体室の開放空間で殺菌槽を配置したままにする場合は、当然、解体室全体の空気環境が対象になります。局所で対策するよりも規模が大きくなり、エネルギー負荷も大きくなります。
解体室自体で発生している水分の処理はその室内で処理する必要があり、さらに外気をそのまま導入している場合は、外気の処理と室内で発生する水分を処理して準備室に負荷を持ち越さないことが必要です。屋外との温度差、発生する水分量を考えるとかなり大きなエネルギー負荷になります。
準備室は設定温度通りに運用されていれば、準備室自体で発生する水分はほとんどないものと想定されるので、そこでの結露は起こらないことになります。また、その空気が冷蔵庫にはいっても、冷蔵庫内の空気との温度差や水分量は結露を起こさない許容範囲の中に納まると思います。冷蔵庫扉の開閉により空気は入れ替わりますが、温度差すなわち空気の比重の差が少なければ空気の流入自体それほど起こらないものと思われます。
結露の原理2
換気と空調
まず換気と空調は別です。
空調はすでに温度と湿度が安定した室内の空気を空調機に吸込んですこし上昇した温度を調整します。換気は屋外の空気をただ吸込んで排気するだけです。(図4)屋外の空気と室内の空気の状態は大きく違います。
外気空調
屋外の空気だけ吸って室内に空調した空気を送る外気空調機という特殊なものもあります。列車に付いている空調機は停車駅で扉があくとき屋外の空気を吸うので似たような性質を持っています。外気空調機は室内の空調機に比べて、同じ空気の量を空調するのに3倍の量、逆に同じ能力の空調機だったら室内の1/3の空気だけ空調します。外気空調は、通常の外気の温度を下げて結果的に除湿することになり、結露を防ぐ手段のひとつとして有効です。
エアバランス
換気は給気だけ、あるいは排気だけ行うこともできます。しかし、建物全体では空気を排気した量、そのぶんどこかから屋外の空気を吸っています。給気が足りなくて建物の隙間、よくあるのが出荷口や入荷口から意図せず大量の空気を吸っているケースがあります。意図せず吸う空気の水分量が多いと結露を引き起こす原因となります。
陽圧
陽圧と結露は直接関係しませんが、陽圧化を行うということはある部屋の空気が別の部屋に流入しますから、そのふたつの部屋の間で温度差があれば結露が起こる可能性があります。陽圧化を行う場合は、結露のリスクを検討したうえで設計する必要があります。(図5)
温度による気圧差
空気には重さがあります。
1m3の空気の重さは0℃で1.3kgです。冷たいと重く、暖かいと軽くなります。20℃で1.2kgです。冷蔵庫や冷凍庫の扉を開けると空気が入れ替わります。(図7)温度差が大きいほど入れ替わる時間は短くなります。
解決法
結露の相談や原因究明は適切な業者選定がポイントとなります。換気の原理や水分の侵入経路など、教科書にないものの組合せになります。一般的には、結露は壁や天井で発生するので建設会社に相談するケースが多いです。
建設会社の設計者は設備のことまでわかっているところは多くありません。大手の建設会社は設備部署を持っていますが、結露は経験値が少ない分野になります。実は設備会社でも同じような傾向があります。
設備会社の延長で、建物に機械を配置して運転時の状況まで想定して設計する生産設備エンジニアリングというカテゴリーがあります。専門性がありかなりの数の食品工場に足を踏み入れます。結露はそうした経験の積み重ねでわかってくる部分があるので、そのような経験値も考えて選定することが大切になってきます。