ふだんなにげなく“空気”について考えていることがあります。オフィスで空調機が稼働していて25℃くらいの適温になっていると一日中それを意識することはありません。ところが冬の朝、10℃の部屋に入ったり、夏の日中35℃の部屋に入ったり、さらに空調機が故障していたりすると、そこでその有難味を感じることになります。稼働中の工場に入るときは、そのふだん気にしない空気を意図的に気にする習慣がついています。室温の表示をいちいち確認することは少ないので、いまこの部屋は何℃だろうとまさに肌の感覚で推測します。
精密な温度を要求される部屋をつくることがあります。検証や修理のため温湿度計を持って何ヶ所も計測することがあります。そのときは数値と肌の感覚の誤差が小さくなって、表示している温度とそう変わらない体感温度になってきます。
温度と同時に気にするのが湿度です。水蒸気はよく接します。茹で麺、ボイル、蒸気炊飯、蒸気殺菌、温水洗浄といろいろな場面で遭遇します。これを適切に排気しなければなりません。
次に気にするのは気流でしょうか。風速、毎秒1mまでは気になりませんが、それ以上になると肌で感じます。これが気になるときは、部屋の入口に戻って扉を細く開けたときにどちらにどれだけの風が流れているか測りに行く時があります。よく言う陽圧、陰圧を確認するのは隣室との間仕切りのところがいちばんわかりやすく計測できます。陽圧の度合いによって開き戸の重さも変わってきます。ファミリーレストランに入るときに扉が重くて開きにくいとき、厨房に給気が足りなくて陰圧になっています。
そしてさらに空気の臭いを気にします。非加熱の原材料を扱っている部屋で臭気が感じられると、どこかに排水の滞留がないか、それが1日以上滞留していないか、物理的なところを見て回ります。
パンを発酵する部屋を作る際には、パン酵母が糖を分解する時に炭酸ガスとアルコールを生成するため、いわゆるアルコール臭を感じます。慣れてしまえば済む臭いですが、アルコールの感受性が高い方には負担になります。この経験を店頭に並ぶパンを見たときに思い出し、日常的にパンが好きでなくなるという方も聞くことがあります。
こういった温度、湿度、気流、臭気のほかに空気には重さがあります。1㎥の常温の空気で約1.2kgです。冷えると重くなるため、暖かい空気が上に昇って、冷たい空気が床面に降りてきます。それで部屋ではオフィスでも床面と天井面で1~2℃の温度差がついてしまいます。
家庭の冷蔵庫を開けると、冷蔵庫の中には冷えて重い空気が入っていて、部屋に1.2kgの空気があると、冷蔵庫の空気は下のほうにサラーッと流れ出てきて、上のほうに部屋の空気が入ります。
食品工場にある10㎡の冷凍庫でも同じことが起こり、扉を開けただけで-20℃の空気が通路に流れ出て、通路の35℃の空気が冷凍庫の天井面に流れ込みます。流れ込んだ空気は水分を多く含んでいるので天井面で雫になって雨粒のように貼りつきます。これが1日のうちに何度も起こると、天井面の雫が液体の状態で床面に落ちてきてこんもりと氷の山を作ります。これが床面の氷の山の正体です。
こうしていろいろなことを考えながら工場の中を歩いています。